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橘寛基のGamersta

 ゲーム業界を取材し続けるジャーナリストであり、TVディレクター、橘寛基がお送りするコラム&ニュース。独自の切り口で最新ソフトや業界の動向、注目のゲームクリエイターなど、現場の取材からゲームの今を伝える。

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2010.11.24

第225回 『特別なアイデア』の第3弾 「脳トレ」の裏側


▼さらば脳ブーム

 書店で気になる新刊、「さらば脳ブーム」(新潮新書)を見つけた。大ヒットしたニンテンドーDS用ソフト「脳トレ」(※)の監修者として知られる、東北大学教授 川島隆太氏の最新の著書だ。「脳ブーム」の大本とも言える方が、「さらば」と告げたわけだ。


 一方で先週、川島教授の監修による新しい脳トレ系のゲームも発売されている。発売元はバンダイナムコゲームスで、Xbox360の体感コントローラKinectに対応した「体で答える新しい脳トレ」である。


 バンダイナムコはまだまだ「脳ブーム」が続いて欲しいはずだが、発売の瞬間に肝心な人物から「さらば」と言われてしまったようにも見える。


(※)正式名称は「東北大学未来科学技術共同研究センター 川島隆太教授監修 脳を鍛える大人のDSトレーニング」。本文の中で単に「脳トレ」と言う場合、このDS用ソフトを指す。



▼出すぎた杭でも

 その「さらば脳ブーム」、実に面白く、あっという間に読むことが出来た。「出すぎた杭でもやはり打たれる」と教授は書いているが、あれだけヒットした商品に対する批判とやっかみや、学者の世界の一種の権力闘争がある事は、なんとなくわかっていた。だが当事者の口から語られる現実は、実に生々しい。


 ただ負けず嫌いの川島教授の文章から伝わってくるのは、悔しさや怒りだけではない。実績に裏付けられた自信の反撃が、こんなに挑発して大丈夫なの?と時に心配にさえなる。この本を読むと、「脳トレ」には教授の研究の裏付けがあることも理解出来る。


 「脳トレ」が出来るまでなど、いくつかの産学連携のエピソードも語られている。研究を現実世界に生かす社会貢献の必要性とその難しさも、興味深く読むことが出来た。



▼「脳トレ」第3弾!?

 この本を当コラムで取り上げたのは、ゲームジャーナリストとして見逃せない部分があるからだ。国内約900万本、全世界で約3300万本を売り上げた任天堂の「脳トレ」シリーズに、近く第3弾が登場するとあるのだ。


 あれだけヒットしたにも関わらず、本格的な第3弾の話がないのは業界では不思議に思われていた。普通ならとっくに続編が出ているはずだ。あくまでDSというハードの導入用の戦略的ソフトであったから、既に「脳ブーム」の終わりを任天堂がいち早く感じとったから、売れすぎて嫌がらせにあい川島教授が拒否しているから、などの噂があったが、その理由は謎であった。また冒頭で紹介したバンダイナムコのソフトを含めて、他社からの類似ソフトは未だに出続けている。


 この本ではその理由が語られている。「出せば売れるのは確実だろうけど、それじゃ何か面白くない。次に出すとしたらもっと新しい『何か特別なアイデア』が生まれたときにしましょう」(「 」内は抜粋して引用)と川島教授と任天堂の岩田社長との間で意見が一致していたという。この高い志には大きな拍手を贈りたい。



▼何か特別なアイデア

 「守秘義務があり、詳しい情報開示ができない」としながらも、その弾3弾ソフトが2010年末くらいに出るとある。つまり『何か特別なアイデア』が、既に生まれていたというわけだ。


 ただ任天堂HPやこれまでの発表を見る限り、それに該当するソフトは見当たらない。単に発売時期がずれ込んでいるのだろうか。あくまで推測だが、その『アイデア』はDSの後継機、「ニンテンドー3DS」用のソフトになっている可能性もある。3DSは当初、今年の年末発売と予想されていた。書籍は出版されるかなり前に書かれている場合もあり、川島教授の執筆当時はそういうスケジュールだったかもしれない。


 「かなり歯ごたえのあるソフト仕上がっている」そうだ。DS用でも3DS用でも、とても楽しみなソフトであり、『特別なアイデア』がまたゲーム業界に新風を巻き起こす事を期待したい。



▼「さらば」なの?

 こうして一部だが本の中身を紹介すると、「脳トレ」第3弾も準備していて、なぜ本のタイトルが「さらば脳ブーム」なの?と疑問を抱かれるのではないだろうか。


 本を読んで頂く方がいいのだが、教授が「さらば」と言っているのは、あくまで「ブーム」に対してだ。そしてこの「ブーム」が去っても「脳トレ」が社会にある程度根付くだろうという自信をのぞかせている。


 例が適当でないかもしれないが、「モツ鍋ブーム」や「ジンギスカンブーム」。ブームに便乗しただけのお店はすぐに消えていくが、本物を適正に提供し続けた店は美味いと思った客に支持されて生き残る。ブーム時のように行列こそしないが、食のジャンルとして認知されて根付いていく。


 川島教授は「脳ブーム」を生みだした一人として反省もしつつ、そこから教訓も得て、次なるステップへと踏み出そうとしている。著者にとっての"けじめ"でもある一冊のように思える。